さけのいずし

 好きな食べ物の一つに「さけのいずし」がある。

1月の下旬、うちに十勝に住む父方の従兄弟から、この「さけのいずし」が届いた。薄紅色のさけは、ほどよく酸味の出たキャベツなどの野菜と共に、麹のうまみをまとっていた。そのおいしさに箸を進めていると、父がこのいずしに添えられていた従兄弟からの手紙を差し出した。そして、これを目にしたとき、この贈り物に込められた想いが胸に溢れ、言葉の代わりに涙がこぼれた。

 今年の一月一日、元旦の朝、父方の叔母は83才の人生に終わりを告げた。12月の下旬、叔母は、一時危篤状態になった。長男である従兄弟から電話をもらった父は、もう意識がなくなりかけていた妹の耳元に電話で「頑張れ、負けるな。俺も心臓の手術を控えているからすぐに行けないけれど、春になって暖かくなったら、きっと会いに行くから。」と言って励ました。叔母は、その声にかすかに、けれど確かに頷いたという。そして、間もなく叔母は奇跡的に意識が戻り、自宅に戻ることができた。気丈な叔母は、きっと最後の力を振り絞り、年を越したのだろう。

 叔母は癌の手術を2年前にしていたが、転移が見つかり、余命がもう長くないと言われていた。12月に入り、従兄弟は急いで叔母と二人でこのいずしを作り、叔母もできあがるのをとても楽しみにしていたという。けれど、それができあがるのを待たずに叔母は旅立って行ってしまった。だから、「母の代わりにその兄弟たちに食べてもらいたい。」と、従兄弟は5人の伯父達の家に母親との最後の思い出が詰まった贈り物を届けてくれたのだ。

 「初めて作ったいずしだったけれど、なかなか美味しくできたと思います。」と書かれた文面を読んだとき、息子と一緒に初めての、そして最後のいずしづくりを楽しんでいた叔母の姿が目に浮かび、涙が止まらなくなった。

 私は、お正月が来る度に、そしてさけのいずしを食べる度に、これからもずっと叔母のことを思い出すだろう。本当に親思いだった従兄弟の気遣いと共に・・・・。